エリート警視正は愛しい花と愛の証を二度と離さない
(瞬さんはきっと向こうでものすごく忙しいんだ。私も頑張らなきゃ)

 佳純は心配と寂しさを仕事の忙しさで紛らわしている状況だった。

「そうだったの。でも年始はうちも少しは落ち着くから、彼が帰ってきたらお休みを取ってゆっくり会ったら?」

「ありがとうございます。そうします」

 店長に励まされ佳純も笑顔になった。
 
 忙しい一日を終えた二十時すぎ、締めの当番だった佳純は施錠を終え、ひとり外へ出る。

「うー、寒い」

 吐いた息が煙のように冷えた空気に消えていく。身を縮めコートの前を合わせて歩き出そうとしたときだった。佳純の横をタクシーが通り過ぎ停まり、ひとりの女性が降りた。

 何気なく目で追っているとタクシーを待たせたままその女性はこちらに真っすぐ近づいてきた。

「岡本佳純さんですか?」

「は、はい」

 正面に立った女性に突然自分のフルネームを呼ばれ驚く。

 佳純より少し年上だろうか。上品なスーツに身を包んだ彼女は色白で顔が小さく知的で整った顔立ち、胸まである長い黒髪が艶々していて、一見して育ちのいい女性に見えた。
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