別れた警視正パパに見つかって情熱愛に捕まりました
 成人式帰りだと思われる振り袖姿の女性に注文されていたブーケを渡した店長は、店の外まで見送るとニコニコしながら戻ってきた。

「いいわねぇ。ウチの息子に『お母さん今まで育ててくれてありがとう』なんて花贈られたら感動で泣いちゃうかも」

「店長の息子さんならしてくれそうじゃないですか」

 鉢植えコーナーのハーブに水をやっていた佳純は手を止めて答えた。

「どうかしら、花なんていつも見てるからいいだろって言われるかも」

「たしかに、男の子ってその辺素直じゃないところありそうですもんね」

 佳純は笑って返したつもりだったが、店長は心配気な顔でこちらを見ていた。

「佳純ちゃん大丈夫? ここのところなんだか顔色が良くない気がするんだけど」

「あ……すみません、最近なんとなく食欲がなくて」

 鋭い指摘に慌てて頬を押さえる。

「あらやだ、大丈夫?」

「はい。他に悪いところもないので、明日はお休みだからゆっくりしますね」

「うん、そうして。今日は残業しないであがってね」

「ありがとうございます」

 気遣ってくれる店長にお礼を言い作業に戻る。土の乾き具合を確認しながら佳純は心の中で大きな溜息をついた。
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