転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない

 お父さまの言葉に、驚いてしまう。どうやら、あの白い部屋と現実世界では、時間の流れが違うらしい。何年も過ぎていなくて良かった。
 
「無事に戻ってきてくれて、本当に良かった」
 
 アレ兄さまが私の手を取り、ぽんぽん、と手の甲に優しく触れる。
 
「僕があのとき、小屋で雨宿りをしようと言わなければ。守ってあげられなくてごめんな」
「ウェスタ兄さまに責任はないわ」
 
 そう。悪いのはあの神さまなのだから。
 
「でも……」
「そうよ。ウェスタはすぐにイリスを抱えて帰ってきたでしょう? あのあとウェスタだって、熱をだしたじゃない」
「熱を出しながらも、イリスの近くにずっといたんだ。ウェスタの気持ちが、神さまに通じたんだろう」
 
 お父さまとお母さまが、ウェスタ兄さまの頭を撫でる。三人のお兄さま達も、同じように撫でていた。
 
「ウェスタ兄さま、私のそばにいてくれたの?」

 それも、熱を出していたのに、だなんて。
 
「僕だけじゃないよ。皆近くにいたさ」
 
 フェデルが水を持ってきてくれたので、手を借りて上半身を起こす。
 
「皆がいてくれたから、私、生きて戻って帰れたのね」
 
 そう言えば、皆が一斉に「イリスッ」と抱きしめてくれる。コップを落としそうになったけど、フェデルが抜き取ってくれた。有能すぎる……。
 
「お医者さまがご到着です」
 
 執事のゼノアの声かけに、一度皆、部屋を出ようとなった。いやいや、もう遅いし、寝て欲しい。
 
「もう夜も遅いし、また明日の朝に」
 
 私の言葉に、皆名残惜しそうな顔はするものの、納得してくれた。
 三日間も死にかけていたのだ。きちんと復活して、神さまの言う『悪役令嬢イリス・エーグル』の今後のことを、考えなくちゃね。
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