転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 ま、私は部屋に籠もって本を読めるのでラッキーなんだけど。

「申し訳ありません。私は今から湯浴みをして、すぐに部屋に戻ります」
「イリス・エーグルは素直でよろしいわね。クレオメガ・ワストル。あなたも素直に従いなさい。ここでは我が儘は許されません」

 彼女のお茶会云々は、ただの我が儘として、扱われてしまった。
 まぁ我が儘なんだけどね。

 貴族令嬢を預かる寮なので、ある程度の規律はしっかりと守られないといけない。
 寮母先生は悪くはない。そして、この面倒な彼女との言い合いに乗ってしまった私にとっては、ありがたい存在になったのだった。

    ***

「あ、今日のことって、親に報告とかいっちゃうのかなぁ。余計な心配はさせたくないんだけど。あとで確認しておこ」

 湯浴みを終え──広い浴槽があるお風呂は最高だった──部屋に戻った。
 飲み物などは使用人が用意してくれるらしく、ベルを鳴らす引き紐の場所でオーダーを分けてある。

 その紐は階段下(使用人室)に繋がっていて、どこの誰が何をオーダーしたかが分かるらしい。
 お茶については、あらかじめ茶葉を渡しておくと希望のものを淹れて貰え、そうじゃなければ規定の茶葉を使う。

 私は味にそんなにこだわりがないので特に渡してないけれど、これ、領地でお茶を作ってる人とか、上手く売り込めば良い商売になるんじゃないかしらねぇ。

「さ、本を読む時間にしましょ」

 借りてきた六十七冊の本が山積みになっているワゴンを見ながら、胸が高鳴る。

「今日何冊くらいいけるかな」

 ぱらりと開いた『毒虫の習性』のカラフルな色合いに、クレオメガを思い出す。

「毒虫はカラフルなんだなぁ」

 人間も虫も、やたらと眩しいのには近付かない方が良さそうだ、なんて思ってしまった。
< 103 / 168 >

この作品をシェア

pagetop