転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
    ***

「ようこそ、ハッグス城へ」

 側妃が待つお部屋に入ると、なんだかとても良い香りがした。これが高貴な方の香りってやつなのかしら。
 入って早々に、側妃は私を抱きしめる。挨拶もまだなのに、突然のハグに驚いていると、後ろにいたデリーが私と側妃を剥がしてくれた。

「母上、まだ挨拶もしてないのにそれをすると、イリスが驚きます」
「まぁそうよね。ごめんなさい」

 そう言ってコロコロと笑う彼女は、まるで百合の花のように清楚な美しさがある方だった。
 お母さまにあんな事件を聞いていなかったら、ただただ国王に愛されたのかと勘違いしてしまいそう。

 だからこそ、いろいろと誤解が生まれ、それをいいように放置されたのかもしれないけれど。
 ──つまり、真実の愛とか言い出した国王の妄言が、いかにも本当のように流布された、ということ。

「しばらく二人でお話ししたいから、デリーは席を外して頂戴ね」
「……イリスに変なことは言わないでくださいよ」

 デリーの言葉に、側妃はにこりと笑う。
 肯定も否定もしないんだ。これはもしや嫁いびりみたいなことが、発生する可能性が?
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