転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「その通りよ。私も、いくらなんでも、マージョナル帝国の病が、王城にいる息子にかかる可能性があるだなんて、暢気に考えることはできなかったわ」

 それはそうだろう。
 万一マージョナル帝国の人間が保持している常在菌であったとしても、デリーがマージョナル帝国の使者とであう可能性は低い上に、そこで罹患する可能性を考えたら、狙われたとする方が自然だ。

「まさか、その先でお嫁さんを見つけてくるなんて、思わなかったけど」
「え、私とデリーの婚約って」
「あの子の希望よ。もちろん、王家にとっても喜ばしい縁だから、国王陛下も賛成していたわ」

 まさか、政略結婚とはいえそれがデリーにとってはその……恋愛結婚のようなものになっていたとは。
 でも確かに、私に対するデリーの対応を思えば、不自然では全くない。

「あなたにとって、もしもこの婚約が意に沿わないものであれば、言ってちょうだい。どうにかできるかは分からないけれど、それでも、男性の気持ちだけで進めてしまうなんて──私は嫌だわ」
「レテシア殿下……」

 ご自身が、無理矢理娶られた立場だからこその言葉。
 それは、私に重く響く。
 一度、二度、三度。ゆっくりと瞳を閉じ、まばたきをし、息を小さく吐く。

「私は、デリーが好きです。実は第一王子であることを、私だけが失念していて、あとでそうだと知って少し……迷いました」
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