転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 あのパーティの日を思い出す。
 王族の列に並ぶデリーを。デリーがデルピニオだと分かったときを。
 そしてそのあと、テラスで私のことを気遣っていた彼のことも。

「でも、私が好きなのは第一王子デルピニオではなくて、デリーだって思ったんです。そして、彼は私の前ではいつだってデルピニオでありながら、デリーなんです」

 どちらか片方ではない。
 デリーはデルピニオとしての責務はあるし、けれど同時に、デリーという人間でもあるのだ。

「私が彼の横に立つ立場を得るにふさわしいかはわかりません。でも、彼を手放す気はありません」

 はっきりと告げれば、レテシア殿下は私の方に体を向ける。
 彼女の表情は柔らかく、そしてあたたかかった。
 あぁ、これは母としての顔だ。そう感じる。

「ありがとう」

 レテシア殿下は私の両手をそっと取ると、彼女のそれで包み込みそう言った。
 まるで泣いているような、笑っているような、どちらともつかない声の震えは、レテシア殿下の真心なのだと思う。

「レテシア殿下──お義母さま」
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