転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「あぁもう。今すぐ! 今すぐ結婚したい。今すぐずっと一緒にいたいよ、イリス」
「デリーったら」
「でも、そのためには、準備が必要だからね。イリスが心置きなく僕のお嫁さんになれるために」
「準備?」

 デリーはにこりと笑って、もう一度私をぎゅうっと抱きしめる。
 準備……まぁそっか。王太子にならないといけないから、そのための準備っていろいろあるんだろうしねぇ。

「イリスは、こっちにいる間に、思い切り図書館の本を読んでおくといい」
「そうね! それは本当に嬉しいわ。あと、ここの庭師さんも紹介して欲しいの」
「うん。手配してあるから安心して。他にも、必要なことがあれば、なんでも言って」

「デリーは私に甘すぎると思うの」
「そうかな? これでも自制してるよ。本当はもっと甘やかしたい」
「……今のままで十分でございます!」

 これ以上甘やかされたら、私デロデロに溶けて、それこそ王太子妃、王妃になんてなれなくなっちゃう。
 そしたらデリーと一緒にいられなくなるもの。
 それは嫌だわ。

「あっちの噴水の向こう側も行ってみようか」

 広い庭には、噴水も、生け垣も、大きな木も小さな花も、余すところなく計算され尽くされて存在していた。
 そちらには、一人の男性が立っている。

「彼がこの庭を担当している庭師のビューザックだ」
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