転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 デリーの紹介に、彼は体を低くして挨拶をした。

「初めまして、ビューザック。私はイリス・エーグル。エーグル辺境伯の娘で、デルピニオ殿下の婚約者です」

 一応、王城の中だし、こういう自己紹介が良いのかと思って言えば、デリーはなんだか嬉しそうな顔をしていた。
 まぁね。あまり私から「婚約者です」って言うことってないから。

「今日はこの庭についていろいろとお伺いしたくて」
「この庭にいる限り、直答を許す」
「は」

 そうか。第一王子と婚約者、って王城に於いては、直接使用人が話しかけてはいけない存在なのか。
 どうにもその辺りが抜けがちなのは、前世の記憶と言うよりも、ずっと辺境伯領で過ごしていたから、という部分が大きい。

 うちは領地の中では誰もが直接話しかける。相手が例えお爺さまやお父さまであっても。
 きっと、格式が高いようなお家だと、そうもいかないのでしょうね。

「ではさっそく……。ここの木の刈り込みなんだけど」
「この辺で出る虫の種類って」
「薬のようなものは使っています?」
「花の開花のバランスをどう計算して」
「色合いの指示はどなたから」
「実や花を荒らす鳥や虫の対応って」
「栄養のかけ方は、何を重視してますか? 三大栄養素以外も知りたいわ」
 
 次々と質問をしていけば、ビューザックは少々面食らったかのよう。
 どうせ貴族のお嬢さんが庭師に質問するだなんて、花の種類程度だろう、と思ってたみたいね。

 だんだんとビューザックの表情も真剣になり、丁々発止のような状態に。
 デリーはそんな私を何が楽しいのか、ずっとにこにこ眺めている。

「聞きたいことは大体聞けたわ。あとは──」

 私の言葉に、ビューザックとデリーはにっこりと笑った。

「ハーブの庭を見せて頂戴」
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