転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 さすがにこの状態で、派閥がどうの、などと言ってはいられない。
 この学園で不穏なことが起きてしまっては困るし、事態を軽く見ているあの女生徒の命も大切だ。
 そしてなにより、王族になにかがあっては大変なことになる。

 クレオメガ公爵令嬢はオトモダチを引き連れて、稽古場に向かっていった。
 私たちは、第二王子派ではないので、まぁ高みの見物という部分はある。
 あとは勝手にあちらが片付けるだろう。

「あの側近達はどうして止めなかったのかしら」
「確かに……そうですよね」

 そういえば、デリーには側近とかっていないな。
 今探しているところなのかしらね。
 立ち位置的にはウェスタ兄さまとかが、あっていそうだけど、さすがに同じ家門から妻と側近は出せないか。

「ひどぉい」

 またしても例の女生徒の声がした。

「酷くないですわ。第二王子殿下に食べ物をお渡しするだなんて、なんて不敬な」
「まぁまぁクレオメガ。俺は構わないよ。彼女、かわいいし」
「そういう問題ではございません、殿下」

「クレオメガ」
「……はい。それでは……。あなたは! 二度とこんなことなさらないように! 今回は殿下の優しさのお陰でしてよ!」
「そんなぁ。そうやって私が下級貴族だからってぇ」

 その言葉を最後に、パタパタとおよそ淑女が出さないような足音を立てて、彼女が去って行くのが見えた。

「一体何の茶番なのかしら」
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