転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「さぁ……見慣れない女生徒ですが、イリス様はご存じで?」
「私も見たことがないのよね」

 少なくとも側妃派と中立派の人間の顔は全て覚えている。
 正妃派もたいていの顔は名前と共に一致しているが、彼女はみたこともない。

「貴族名鑑に載っていない方ならあるいは」

 年に一度、貴族名鑑が発行される。
 そこには全ての家の者が似顔絵と名前が共に記載されるのだが、養子などで年の途中で増えた者については、次の発行まで掲載が待たれるのだ。

「あとで調べさせてみるわ」
「お差し支えなければ、共有いただけますと」
「もちろんよ、ルイベ様」

 なんて思っていたのだけれど。

「きゃっ! 痛いっ!」

 突然私の横で転んだ女生徒の声に、覚えがあった。

「大丈夫? 何かに滑ったのかしら?」

 首を傾げながら声をかけると、こちらを見た顔を見て十数分前の記憶が蘇る。

「あなた──」
「酷い! 私が下級貴族だからって、足を引っかけるだなんて」
「は?」

 彼女はそう言うと、すっと立ち上がって走り去っていった。
 そのあまりの素早さに、思わず待って、と手を伸ばしてしまうほど。

「何だったのかしら。わかる? ルイベ様」
「さぁ……」

 隣にいたルイベ嬢と二人、顔を傾げてしまう。
 そんな不思議な女生徒との縁は、何故かその後も続いてしまったのだ。
< 131 / 168 >

この作品をシェア

pagetop