転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 領地のことを考えていることが伝わると、お爺さまを始め、皆がほう、とため息を吐く。
 やはり私は甘やかされているなぁ。このくらいで自慢の孫ですって顔しちゃうんだもん。

「そしてもう一つ」

 触れていた指で、中指を前に折る。人差し指が一本だけ残った。
 改めてデリーを見る。
 私の視線に、彼も私を見た。

「いつ、この国から離反しても問題ないように、です」
「イリス、お前!」

 ウェスタ兄さまが驚いた表情を私に向ける。
 そしてすぐにデリーの方を見た。

「別に離反するつもりはないですよ。ね、お爺さま」
「もちろんだ」
「ただ、この先何が起きるかわからないのも、本当です。正妃は何をしでかすか、わからない人間である、と私は認識しています」

 デリーの命を、じわじわと追い詰めていくあの手法。
 自分の手を汚すこともしなければ、それがばれないようにするために時間をかける方法をとることも厭わない。
 あの女は、おそらく第二王子を国王に仕立て上げたいのであろう。

 そのために、私やデリーに手をかけてくることはもちろん、我が領地に対して何かをしてくる可能性だってあるのだ。
 私は私やデリー、家族はもちろんのこと、大切な領民だって守りたい。
 そのためにも、万一を考えて準備をしておく。

 それは、この先どんな気候になり、どんな障害が発生するかを先回りで考えながら庭造りをする、ガーデナーの仕事と同じなのだ。
< 135 / 168 >

この作品をシェア

pagetop