転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「君に名を呼ぶ許しをした覚えはないし、ましてや愛称で呼ぶなんて、失礼だと思わないかい?」

 デリーの声が、絶対零度と言えるくらい冷たい。瞳も、普段私には見せることのない色を、のせている。

「え……、あ……、その」
 
 びっくりしたぁ。いきなりデリーのことをデリーって呼ぶの、勇気あるよね。
 デルピニオっていう名前すら、いくら学校の同窓生であっても、許しがないと呼べないというのに。

「あ、イリス。今嫉妬したりした?」
「なんでそんなウキウキしながら、聞くんですか。むしろ彼女の身の上を心配した方ですよ」
 
 いつもは私かウェスタ兄さまが一緒にいるから、すごく柔らかい雰囲気だけど、デリーってやっぱり第一王子だから、それなりに警戒心は強いんだよね。
 見た目ほど、誰にでも優しいワケでもないし。

「イ、イリス様が私が下級貴族だからって、無視をするんですぅ」

 えっ。ハート、強っ!
 この状況で、私を悪者にできるのって、かなりハートが強くないと無理だよね。
 ある意味、スカウトしたくなるほどの人材だわ。

「ベルネ男爵令嬢。私は初めてあなたの名乗りを今受けたのだけれど、その上で、どうやって知らない人を無視することができるのかしら」
「う……そ、それはぁ」
「あっ! そうだわ」
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