転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 技術者の彼──プロメスと名乗った──は、自分の弟子と共に、すぐに領地に向かってくれるという。
 紹介状を手渡す。

 まもなく来る冬の休みには、私もすぐに領地に向かうと約束した。
 家族と、特に領政を担っているお母さまへの手紙を先に送り、彼を迎え入れて貰おう。

「これで一つ解決したわ」
「役に立てたなら、嬉しいね」
「デリーったら。いつも本当にありがとう」

 手を繋ぎながら王城の廊下を歩いていると、向こうから嫌な気配を感じる。

「これは……逃げられない?」
「うん。ごめんね、イリス」
「気にしないで。不可抗力よ」

 高く盛った髪のアレンジ方法は、セルート大公国の王族特有の形。
 目元にキラキラと光るアイシャドウ──あれはちょっと良いな、って思ってしまった──に、少し青みがかった赤い口紅が、彼女の顔を美しく見せている。

 ブルベ冬かな。
 うっかり、どうでも良いことを考えてしまった。
 
 ドレスは幾重にも重ねたレースが重く見える、昔ながらのスタイル。
 私たちはクリノリンに慣れてしまったので、このスタイルを見るにつけ、重くて腰に負担がきそう……なんて思ってしまう。

 立ち止まり、端によりカーテシーをする。
 相手は──正妃シュディリアン・セルート・ハッグスだ。

「あら、誰かと思ったら死に損ないの第一王子と、その婚約者じゃない」
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