転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 羽が付いた扇子で口元を隠し、馬鹿にしたような顔を見せる。
 ふわ、と扇ぐと羽がほろほろと零れてきた。

 死に損ないの第一王子、なんて良く言う。
 誰が殺そうと画策したのか、こちらはわかっているのだ。
 
 とはいえ、そんなことを言うことはできない。
 制服のスカートの裾を握る手に力を込め、怒りをどうにか収める。
 正妃に殴りかからない理性があって良かったわ。

「そうだわ。キュノがその娘を側妃にしようとしてるとか。私は辺境伯の娘なんて、粗野で気に入らないけど、あの子が良いというならねぇ。死に損ないの第一王子より、未来が輝かしいキュノの方が良いんじゃなくって?」

 ホホホ、と高笑いするのを見ていたら、沸点に到達した怒りが、スンっと消えていった。
 あまりにも下品で愚かな女を相手にするのが、馬鹿らしくなってしまったのだ。

「恐れながら申し上げます」
「あら、よろしくってよ」

 できるだけ平坦な声で、正妃に話しかける。

「キュノ第二王子殿下に於かれましては、私などよりも、お気に召す令嬢がおられるご様子。ぜひその娘を召し抱えていただければ」
「あの子に? ふぅん。ということは、そなたはすでにお払い箱ということね。まぁあの子のお下がりで我慢なさい、第一王子」
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