転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 またしてもホホホと笑いながら去って行った。
 お払い箱とかお下がりとか、何を言っているのかわからない。
 最初から最後まで、私は私のものだし、デリーしか愛していないのにね。

 ……愛?

 私、今愛しているって思った?

「はー」
「ごめんね、イリス」
「あ! 違うの!」

 思わず吐いたため息は、デリーを誤解させてしまった。

「あの、そのね。今、正妃陛下にあんな風に言われて、私は心の中で」

 そこで、言葉が止まる。
 こんなことを、ホイホイ言うには、私は経験値が浅すぎるのだ。

「うん?」

 優しい顔で、私をのぞき込む。

「その……。デリーしか……あ……あぃ……」

 小さくなる声を拾ったのか、デリーの腕が私の背にまわる。

「うん。イリス、続きを教えて」
「あぃ……してるのは……デリーだけ、って……」

 ゆっくりと、私の体にまわるデリーの腕に力がこもった。
 ぎゅう、と音が小さく鳴りそうなほど抱きしめられ、耳元にキスをされる。

「デ、デリー」

 そんなところにキスをされたことなんてないから、体中が熱を持ってしまう。
 赤く、熱くなっているのを、デリーに気付かれたらどうしよう、なんて思っていると、今度は額に唇が落ちた。

「ありがとう。僕もイリスを愛している。何を捨てても構わないと思うくらいに」

 彼の瞳に、私が映る。
 そしてもう一度、耳元にキスをされた。

 二人でくすくすと笑いながら、小さな幸せを確認する。
 そんな私が、まさか冬休み前のパーティで、婚約破棄だなんて言葉を聞くことになるとは、このときは思いもしなかったのだ。
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