転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 怒りを隠すことをやめたクレオメガ公爵令嬢が、ふるふると扇を持つ手を震わせて発話し、踵を返す。
 カーテシーすらしていないということは、もう彼を見切ったということなのだろう。

「まて! まだヒュブリアを虐めたことを謝っていないだろう!」

 クレオメガ公爵令嬢は立ち止まり、冴え冴えとした瞳で二人を睥睨した。

「何を謝る必要がございますの? 結婚前からの浮気を多めにみて、愛妾となる者を躾けていたにすぎません」

 冷ややかな言葉を放ち、扇子をパチリと閉じた。

「謝るべきは、第二王子殿下とそちらの男爵令嬢じゃございませんこと? 度の過ぎた浮気は、身を滅ぼしましてよ?」

 ではご機嫌よう、と続けると、彼女は出口へと向かう。
 その途中、デリーの前で立ち止まるとカーテシーをした。

 パーティホール中に激震が走る。

 第二王子にはしなかったのに、第一王子にはカーテシーをしたのだ。
 もちろん、通常であれば第一王子の前を辞するのだから、カーテシーをするのは当然なのだけれど、その前に第二王子にはしていなかった、ということが、大きい。

 彼女の家門は第二王子の母親、正妃派だが、これで派閥のバランスはどう変わるかわからない。
 それと同時に、危うさもある。

「デリー」
「ああ……」
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