転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「二人とも、帰ろう。デリーも一度、我が家に来てくれ」

 ウェスタ兄さまが私たちに、そっと声をかけた。
 
「そうね。お爺さまとも話しておいた方がいいかも」
「僕の馬車はそのまま王城へ戻そう。二人の馬車に同乗させてくれるか」
「もちろんだ」

 クレオメガ公爵令嬢とそのオトモダチが去った混乱に乗じて、私たちも密かに会場を後にする。
 王家の馬車はデリーを乗せずに、けれど乗せているようにカーテンを閉めて王城に帰した。デリーはそのまま私たちの馬車に乗る。

「僕とイリスはこのあと、領地に戻るけど、デリーは」
「残念ながら、学校に入ってしまったからには、新年の挨拶をしないといけなくなったんだ」
「そうか。それが終わって動けそうなら、できるだけ早くこちらに。デリーの身が心配だ」

「うちのタウンハウスにいる走竜を使って。デリーなら乗りこなせるでしょ」
「ありがたい。だができれば──走竜に牽かせた竜車を借りたい。母上も連れて行くつもりだ」

 デリーの顔に、決意が見えた。
 私とウェスタ兄さまは、その表情を受け頷く。

「下準備はしておくわ。決意はしたのね」
「ああ。それなら、イリスも安心だろうしな」

「やぁね。私は王太子妃にも王妃にも、いざとなれば決意したわ。……多分」
「ほら、多分じゃないか」

 くすくすと笑うデリーは、どこか一つ気負いがなくなったように、穏やかだった。

「二人とも、今までありがとう。僕は──王家を捨てる」
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