転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 プロメスと別れて、また領地をまわる。私が預かっている閑地の温室を確認し、フェデルに用意して欲しい種や苗をお願いした。
 ここの地域はお花畑を作る予定だ。

 バラのアーチに小さな花、木立を植え込んで、領民がゆっくりできるような公園にしようと思っている。
 そうした場所をたくさん作って、領民の各村村の交流を、今よりももっとしやすくしたい。

 植物には、それをしやすくする効果があるし、前世の私のようなガーデナーはその演出をするために、技術を磨いているのだから。

「お嬢さま。タケッティの植え込みについて、報告が届いております」

 領地を一望できる丘で休憩を取っていると、フェデルの元に早馬が到着した。
 どうやらメル兄さまかららしい。

「領地の周りにタケッティの植え込みを完了。また、王都からの街道の途中にも、通行を止めやすい形での道端の植え込みを終えたそうです」
「さすがメル兄さま、仕事が早いわね」

 これで、王都からもしも馬がやってきたとしても、横にある竹──タケッティを道側に倒せば、時間を稼ぐことができる。

「まあ、あの王城に、我が辺境伯家に牙を剥く気力のある者がどのくらいいるかは分からないけど」
「お話をお伺いしておりますところ、正妃陛下は少々……アレでは」

 フェデルの言葉に、あの日デリーを『死に損ないの第一王子』と呼んだ正妃が浮かぶ。
 どちらが、社会的に死に損ないになるか、楽しみじゃない。

 そんなことを考えている余裕がそのときには、まだあった。

「イリスお嬢さま! デリー様が倒れたと!」
 
 その日の夕飯後、執事の叫びを聞くまでは。
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