転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 私の声に追従して、部屋中の皆が名前を呼ぶ。
 彼を抱きしめ、そうして、彼も私を抱きしめてくれた。

「ダフニス・ヘライン。あなたの母国はセルート大公国、違う?」
「ひっ、そ、それは……」
「正直に答えろ」

 ウェスタ兄さまが、剣を引き抜き彼の首元に突きつける。

「は、はいいっ。セルート大公国です」
「カトスルとポクルッス。彼を地下牢に。適切な取り調べを」
「かしこまりました」

 ウェスタ兄さまは、デリーの双子の騎士であるカトスルとポクルッスに、ダフニス・ヘラインを渡すと、部屋の扉を閉める。
 部屋の中には、確実に側妃派の人間だけが残った。

 第二王子が公爵令嬢との婚約を破棄したことで、王妃派側のバランスが崩れた。
 クレオメガ公爵令嬢は、国内三大公爵家の一つワストル公爵家のご令嬢だったからだ。

 後ろ盾を失った第二王子を王太子にするには、第一王子を亡き者にするしかない。
 けれど、あからさまに暗殺をしてしまえば、正妃が疑われると思ったのだろう。

 デリーが子どもの頃に罹患した、グレズストン病を引き起こすハイネ菌。それがすぐにばれなかったことで、正妃は自信をもってしまったのかもしれない。
 自国の病や菌、虫などであれば、気付かれない、と。

 実際は、私がいろんな国の虫の情報を、図書館で得てしまっていたので助かったんだけどね。
 領地の農業のために調べていた虫の情報が役立つとは。
 やはり何でも知識というのは溜めておくに限る。

 ……なんて、そんなことを思っていてもダメだ。
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