転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 口に入っていたリンゴの甘煮を飲み込むと、素早く侍女のフェデルが口元に飲み物を運ぶ。
 いや、私病人じゃないので、そこまで介護のようにして貰わなくても大丈夫よ?

 とはいえ、口の中が甘いのでカップを受け取った。さすがに紅茶のカップを手にする私を抱きしめ続けられないと気付いたのか、兄さま達は私から離れる。体が楽になった。
 抱きしめられるのって、結構気を遣うのよねぇ。

「兄さま達、剣のお稽古なんでしょ? 私、皆の邪魔をしたくないわ」
「イリス、なんて良い子なんだ」

 長兄のアレ兄さまは、私と一回り離れているせいか、何でもかんでも褒めてくれる。甘やかしすぎでは。

「まだ復活したばかりなんだし、あまり無理しちゃダメだぞ」
「そういうウェスタ兄さまだって、お熱出したんでしょ」
「僕は頑丈だから、良いんだよ。イリスは僕らの大事な大事なお姫さまなんだから」
「もう。ウェスタ兄さまったら」

 私の頬を優しく撫でるウェスタ兄さまは、まるで物語の騎士のよう。たった二歳しか違わないのに、この世界では十二歳の少年って、こんなに紳士なのかしら。記憶を取り戻す前の私、どうして平気でいたの。
 思わず顔を赤くしてしまうと、ウェスタ兄さまは心配そうな顔を浮かべる。
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