転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない

第35話 ローズガーデンの乙女(最終話)

 春と言うには少しだけ空気が冷たい、けれど陽射しはもう全ての生き物の目覚めを呼び起こすに十分な日。
 パンジービオラにチューリップ、菜の花、ネモフィラ、フリージア。
 実は全部ちょっとずつ名前は違うけれど、前世の花の名前で言えばそんな花々が、緩くそよぐ風に震える。

 大きな鐘が鳴り、糸杉の丘の見える白亜の教会で、私とデリーの結婚式が行われた。
 誓いの言葉を交わし、教会を出ると、たくさんの領民が出迎えてくれる。

「こんなに皆に祝われたら、喧嘩なんてできないわね」
「喧嘩しても、すぐに仲直りして、さらに仲良くなればいいんじゃない?」
「それもそうかも」

 二人で顔を見合わせ、額をこつりと付ける。
 くすくすと笑えば、皆が拍手をあげてくれた。

 結局ドレスは、純白ではなくて、白いドレスの上に黒のチュールを重ねたものにした。
 ネックレスはもちろんデリーがくれたムーンライトルビー。
 そのルビーにあわせて、少しだけ赤のチュールも重ねている。

 今日は珍しく、髪を下ろして、サイドを編み込みにして貰った。
 普段と違う日なのだ。
 普段と違うことをしたい。

「私の色とあなたの色と、そしてこれから未知数の色の白。全部が一緒の方が良いかと思って」

 そう言って式の直前に彼の前に登場したら、お化粧したばかりの私に抱きつきそうになって、ウェスタ兄さまが必死にデリーを抑えていた。
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