転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「そう言えば、デリーとの婚約が決まるときに、ウェスタ兄さまがちょっと反対してたのよ」
「ああ。それは多分、イリスが王妃になるのを嫌がるかも、って僕が言ってたから」

 婚約の話が出たとき。
 私以外は、デリーが第一王子だって分かっていたんだものね。
 しかも、後で聞いたらデリーはその頃から私のことが好きで、それを私以外が皆知ってたって。

 でも、仕方ないよね。
 さすがに五歳から八歳のときじゃ、気付かないわ。周りにいるのは、男ばっかりだし。

「イリス様」
「まぁ! ルイベ様」
「このたびはおめでとうございます。イリス様のドレス、本当に美しくて」
「嬉しいわ」

 ルイベ・ホシイイ伯爵令嬢を皮切りに、多くの令嬢やご夫人方が、ドレスのことを褒めそやしてくれる。
 きっとこれからは、純白ではないウエディングドレスが流行るわね。

 私はクリノリンや下着を販売している自分の商会に、新しくウエディングドレス部門を用意しようか、なんて思い始めた。
 ワストル王国、つまりは元王妃派の貴族も、クリノリンの噂を聞いたら、商会に声をかけてくるだろう。

 そのときは、どんな風に対応してあげようかしら。
 特にあの、クレオメガ公爵令嬢──おっと。今はクレオメガ王女ね──彼女には。
 
 デリーも男性陣に囲まれ、笑っている。
 ここには、エーグル辺境伯の武力を前に、不義理を果たそうという人もいない。

 デリーが安心して過ごせる場所だ。
 彼の服にも、私の色が入り、それを見ているだけで、なんだか幸せになれる。

 やがて夕暮れになり、パーティはお開きとなった。

「ねぇデリー。一緒に行って欲しいところがあるの」
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