転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「もちろん行くよ。馬車は必要かな」
「ええ。お願い」

 そうして二人で向かったのは、私が預かった閑地──いいえ、もう閑地ではない。
 立派な温室が二つに、その周りにバラや様々な花を植え込んだ、ローズガーデンだ。

「ここは──」
「私が全部手を入れたの。見て、バラが綺麗に咲いているでしょう?」

 乙女ゲーム『ローズガーデンの乙女』では、王城のローズガーデンのバラが一斉に咲くという演出があると神さまは言う。
 実際に行ってみたけれど、あそこに植えられているバラは、一斉に咲くなんて不可能なほど、種類が分かれていた。

 けれどここは。
 ここのバラは。

 ざぁ、と風が走る。
 夕闇の中上がってきた月が、私の胸元のムーンライトルビーに光があたった。
 徐々に色を濃くしていき、私の赤とデリーの黒に溶け合うような色になるそれを手に取り、デリーが石に口づけする。

 顔を上げた彼の目の前には、一斉に咲き誇るバラの花。
 今、この日に一番美しく咲くように、バラの花の開花を調整した。

 それは、聖女の奇跡でもなんでもない。
 ガーデナーである私の腕だ。
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