転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「今日は本を選んだら、お庭に出るわ。──お庭くらいなら良いわよね?」 
「はい。旦那さまからは、歩いて移動できる範囲の庭であれば、問題ないと許可をいただいております」

 お父さまも過保護だった……。でもまぁ、生死の境にいたのだものね。心配してくれて当たり前。とはいえ──

「早く領地をまわりたいなぁ」
「お嬢さまは、領地が大好きですものね」
「当然よ! 私はここで生まれてここで育っているんだもの。領民のことも、領地のことも、大好きよ」

 前世の記憶を取り戻す前も、私は領地を駆け巡っていた。
 それこそ、戦争が始まる前までは、ここで一緒に暮らしていたデリーとウェスタ兄さま、そしてたまにテミー兄さまと一緒に。
 そういえば、デリーは元気かしら。彼が王都に戻ったのは戦争がきっかけだから、なかなか連絡を取ることもできなかった。黒髪黒目のやんちゃな少年は、今頃王都で何をしているのかしらね。

「お嬢さま?」
「やだ。ぼんやりしちゃった」

 うっかり考え込んでしまった。慌てて首をぶるりと震わせる。
 
「さ、フェデル。図書室に行きましょう」

 そう言って、部屋を出たところで、何やらエントランスホールが騒がしいことに気が付いた。

「何があったのかしら」
「見てまいりましょうか」
「私も一緒に行くわ」

 フェデルが頷き、二人で向かう。いつもは私の後ろを歩くフェデルは、万一を考えて私の前に立って歩いてくれた。
 我が辺境伯家の使用人は、男女、職域を問わずとても強い。普段から訓練も受け、護衛を雇う必要がないほどに、鍛えられている。
 フェデルも、元は子爵家の三女だけれど、めちゃくちゃ強い。

 そんな辺境伯家の末の娘だというのに、実は私はあまり強くないのだ。
 どうも、向き不向きで言うと、向いていないみたい。それでも多分、一般的な貴族令嬢と比べたら強い方だとは思うけどね。
< 19 / 168 >

この作品をシェア

pagetop