転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「けほっ」
「大丈夫か?」
「ん。埃くさいね」
あの頃から、誰も使っていないのか。
中は埃が舞っている。
「雨が止むまでの辛抱だ」
「うん」
小屋の中は薄暗くてよく見えないけど、たしか奥にベンチがあるはず。
そこに座ろう、と奥に向かった。ベンチの高さを確認しようと、手を置いたそのとき。
「痛いっ」
「イリス?」
何かが私の手を噛んだ。指先がズキズキと痛む。とっさに、手を振ったら何かが離れた感覚がしたから、虫か何かなんだと思う。
「何かに噛まれた。まだ痛い」
「虫か? 素手で触っちゃったんだな?」
ウェスタ兄さまの問いかけにこくこくと頷きながら、噛まれた指先を目の高さに上げようとすると、痛さがどんどんと増してきた。
「兄さまぁ。痛い。痛いよぉ」
私の前にしゃがんで、指を確認すると、ウェスタ兄さまは自分のシャツをビリッと破いて私の噛まれた指先の少し下をきつく縛る。そうして周りを目をこらして見た後、小さく「ムグイナ虫だ……」と口にした。
「ムグイ……」
そう口にしたところで、ウェスタ兄さまの顔がぼやけ記憶が途切れた。