転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 エントランスホール手前で様子を見ていると、どうやら王家からの遣いらしい。
 戦争が終わって一年。何か報償の連絡でもしにきたのだろうか。

「王家の遣いが来たことで、騒がしくなっていたのね」
「そのようですね。どうなさいますか?」
「騒がしい理由もわかったし、ここまで来たから、このまま庭に向かうわ」

 階段の裏側にある扉から外に出る。バラのトンネルが続くそこを通り、行き着く先は小さな畑だった。

「ホロ爺!」
「おや、嬢ちゃま。もうお外に出ても良いのですかな?」

 ホロ爺と呼ばれた庭師は、細い体躯をひょろりと立ち上げ笑う。彼は実は我が家の細作──いわゆる隠密というやつだ。
 私が小さい頃から、たくさん遊んでくれた。私にとっては、身近なおじいちゃま。
 お父さまが言うには、やたらめったらすごい人らしいけどね。

「お庭までは良いんですって! ねぇ。私お庭でやってみたいことがあるの」
「ほう。隠れん坊ですか、それとも鬼ごっこ?」
「それも楽しいけど、植物を育てたいのよ」
「園芸、ということですね」
「大正解! ねね、畝を作りたいんだけど、どこに作ればいい?」

 畝、とは作物を植えるときに作る、少し盛り上がった土のアレだ。
 私がそんな言葉を知っていることに驚いたホロ爺は、少し目を丸くして、それから笑った。

「何を植えようと思ってるんですか、嬢ちゃま」
「まずはいろんな種類を試したいの。奥の温室で苗になるまで種から育てて……。その間に、すでに苗になっているもので手に入るものがあれば」
「なるほど。今の時期からだと、三ヶ月あとに実を付ける野菜類の苗を手に入れておきましょうかね」
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