転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「お、王命ってことですか、お父さま」

 私の言葉に、苦笑いを浮かべながら頷く。

「それでね。向こうに行くと、いろいろとイリスの婚約とか言われそうじゃない?」
「私の婚約を、ですか?」
「ああ、なるほど。辺境伯家と縁を繋ぎたいという家は多いですからね」
「確かに、メルクリウの言うとおりだ。しかもイリスは我が家の宝。嫁いだ先にも手厚くすることが予想できるというわけか」

 お母さまの言葉に、メル兄さまとアレ兄さまが反応する。
 そんな上二人の兄さま達には、すでに婚約者がいる。どちらの兄さまの婚約者も、武門の家のご令嬢だ。
 何度かお会いしたことがあるけれど、皆さんとても優しくて、家族になるのが今から楽しみ。

「だからね。さっさと婚約を成立させてしまおうかと思ってるのよ」
「えぇと……。お母さま、それでお相手は」
「ふふ。誰だと思う?」
 
 乙女ゲームでは、悪役令嬢イリス・エーグルの婚約者は第一王子だった。
 つまり、ここで他の人と婚約ができれば、私の悪役令嬢ルートは初っぱなから変更になるのでは?
 そう、そうよ!

 でも──もしも相手が第一王子だったら?
 前世の記憶が蘇ったからといって、今の私は貴族令嬢だ。
 領地のための政略結婚や王命には逆らうことはできない。
 うう……。お母さま、じらさないで早く教えて欲しい。

「デリーよ」
「母上っ! それは!」

 私よりも先に、ウェスタ兄さまが反応した。
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