転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
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テレレレッテレ~!
ご機嫌なメロディが、頭に流れる。
「おめでとうございます! 乙女ゲーム『ローズガーデンの聖女』の悪役令嬢に生まれ変わりました」
大音量で聞こえてきた声に、思わず目を見開いてしまった。
「なに?」
薄暗い丸太小屋の中にいた筈なのに、明るくて真っ白な広間に、私一人がぽつんと立っている。それに、今の声は一体何だろう。ローズガーデン?
「はぁい。イリスちゃん」
「……どなたですか?」
突然目の前に現れたのは、真っ白な長い髪を片側に流した、美女だった。まるで氷の女王のように肌も透き通るほど美しい。
「私はねぇ。神さまよ」
「かみさま」
私の知っている神さまは、国教のギュルス教の父なる神ギュルスだけだ。でも、目の前の自称神さまの姿は、今まで見てきたどの神像や絵姿とも異なっている。
「私はギュルスではないわ」
その言葉と共に、何故か脳内に、たくさんの神さまの名前が浮かんでくる。どうして浮かんでくる名前が神さまの名前だと思うのか不思議だけど、何故だかそう思った。
「ふふ。イリスちゃんはねぇ、転生者なの」
何を言っているのか良くわからない。
でも、その単語は知っている。
「転生者、って言葉は知ってるわ」
「今ここは、あなたの前世と現世を繋ぐ、生死の部屋。だから少しずつ前世の知識を思い出しているのよ」
「生死の部屋? 私、死んだの?」
「死にそう、ってところかしらね」
神さま、と名乗った女性は、手のひらを上にすると、そこから小さな炎を生み出した。それがぶわりと大きく広がる。
けれど、不思議なことに熱さを全然感じない。
その炎の中に、私の部屋が見えた。