転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない

第8話 うっかり新しい商売を始めることに

 クリノリン。

 それは、十九世紀にヨーロッパで生まれた、画期的な下着だ。
 ドレスを膨らませるためには、女性は何枚も何枚もペチコートを重ね履きしないといけなかった。

 そこへ、ランプシェードのような形に鯨ひげや針金を丸めて、ハリのある布を貼ったもので、何枚ものペチコートの代わりに、それをドレスの下にはけばふんわりとした形を作ることができるクリノリンが発明されたのだ。

 私は手元でクリノリンの絵を描く。

「こんな形で、ここに……硬い素材を入れるんです」
「硬い素材」
「弾力があるもので──」
 
 鯨ひげや針金は、この世界ですぐに手に入れることができるかはわからない。
 でも。
 デザイナーのジョニュア女史は真剣な顔で、私の手元を見つめている。

 今まだこの世界にない商品。
 つまり、これがうまいことヒットすれば、ガッポガッポお金が入ってくる可能性だってあるわけだ。
 それって、悪役令嬢として万一断罪されたとしても、収入源があることにならないかな。

 特許──は、この世界にないか。
 でもこれをうまく売り出す商会を作れば良い。
 他の店が真似をしたとしても、先行販売している利益というものは侮れないし、それに……。
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