転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 黒。それは婚約者となったデリーの色だ。
 彼は黒髪に黒目だった。でも、私の年齢で黒を基調としたドレスって、難しくないかしら。

「まぁ。それは斬新でございます。イリス様のご年齢で、黒のドレスのご令嬢はいらっしゃいませんから、目立つこととなりますでしょう」
「かわいいイリスの魅力が存分に出るデザインでお願いね」
「それでいて、動きやすく!」
「イリス! あなたはまだそんな」
「だってお母さま。武門の娘として登城するんだもの。その方が良いわ」

 嘘である。
 動きにくいドレスを、わざわざ新しく作りたくないだけ。
 でも、お母さまは私の主張に納得してくれたみたい。

「それもそうね。クリノリンで随分と動きやすくもなるでしょうし、あとは」
「ここ! 袖のこの部分を膨らませて欲しいの」

 何枚も重ねるペチコートの他に、もう一つ問題があるのだ。
 それが、コルセット。

 ウエストを細く見せるために、木のツルを何本も縒ったものや、動物の骨を組み込んだコルセットで上半身を締め付けるアレは、できれば付けたくない。

「コルセットも、できれば普段使ってる布を重ねた柔らかいものにしたいの。そのかわり、ウエストが細く見えるように、肘の前後を膨らませた袖にするのはどうかしら」

 つまり、ウエストの横にボリュームのあるものを置いて「あれ、なんか細いな」と錯覚させる方法だ。
 アホみたいなウエストの細さは、内臓がおかしくなるから不要でしょ。

「イリス……、あなた」
< 35 / 168 >

この作品をシェア

pagetop