転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「イリスっ!」
「お嬢さまを頼みます!」
 
 私の乗っている馬が大きくいななき、上半身を震わせる。
 降り落とされそうになったので、必死で首元にしがみつき、彼を落ち着かせようと声をかけていく。
 フェデルがどこかへ消えていくのが、視界の端に見えた。
 
「イリスこちらに飛び乗れるか?」

 ウェスタ兄さまが私の馬と併走しながら声をかけてくれるけれど、そんな余裕はない。
 舌を噛まないように、首だけで無理と言うことを伝える。

「わかった。縄をかける!」

 その声に、少しだけ馬の首から体をずらすと、ウェスタ兄さまの方から輪っか状の縄が私の馬にかけられ、行動を制限させることに成功した。
 
 「どう、どう」

 落ち着きを取り戻した馬は、ゆっくりとその動きを止め、ぶるると鼻を大きく震わせる。

「イリス、もう大丈夫だ」
「うん……」

 一度降りようかとも思ったけれど、それよりも落ち着ける場所に移動する方が良い。
 ウェスタ兄さまも同じことを思ったようで、二人で最初の予定通り糸杉の小山に向かった。

 馬を木に繋ぎ、私たちは草の上に座る。
 春の新芽がびっしりと生まれているそこは、ふかふかとやわらかかった。

「何が起きたのか、私わかってなくて」
「イリスの馬の足下に、矢が放たれたんだ」
「矢が……?」
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