転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 思わず眉をひそめてしまう。
 矢が私や馬に命中していたら、大変なことになっていたからだ。

「イリスを狙った、と思って良いだろう」
「そんな。私が狙われるような理由なんて……」
「今、フェデルが犯人を追ってる」

 彼女は犯人を捕まえたら、そのまま屋敷に戻るだろう。
 こういうときは、そうした手はずになっているから。

「馬車を呼ぶ。それまで僕とここにいよう。見晴らしの良いここは、潜伏することはできない」

 ウェスタ兄さまはそう言うと、笛を吹き鳥を呼んだ。それにメモをくくりつけて放つ。
 これは領内の知らせ鳥。訓練された鳥が領内を自由に飛び、決められた笛の吹き方に従って伝書鳩のように手紙を運ぶのだ。

「私を害して、一体なんの得があるのかしら」

 少なくとも、私に怪我をさせたり、万一死んでしまうなんてことがあれば、私の家族どころか、一族が黙っていない。
 戦神が揃いまくっている──そもそも戦神なんてそんなにいるものじゃないと思うけど──我が家が本気になれば、下手をすればこの王国が焦土と化してしまうのではないかしら。

「これははっきりとは言えないけど、でも多分」
「多分?」
「いや……僕が今ここで言うのは」
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