転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「ウェスタ兄さま? お母さま、お父さま……。アレ兄さまにメル兄さま、テミー兄さままで。どうして皆、私のベッドの周りに集まってるの?」
 
 私の部屋の、私のベッドの周りで、家族が心配そうな顔をして集まっているのだ。
 
「これは今の、エーグル辺境伯家の状況よ。あなたがムグイナ虫に刺されたと気付いたウェスタが、急いで屋敷まで連れ帰ったの」
「ムグイナ虫……って、毒虫だわ。私、素手で虫に触ってしまったの?」
 
 あのとき噛みついてきたのは、ムグイナ虫だったのだ。そういえば、ウェスタ兄さまがそう口にしていた気がする。
 
「まだ十歳のあなたには、あの虫の毒は危険だからね。それで今、ここにいるのよ」
「そんな……! 今すぐ家族の元に戻して……ください」
 
 彼女が自称神さまだとすれば、丁寧な言葉を使った方が良いのだろう。ここの場所から戻して貰えれば、死ぬことはないのではないか。漠然とそんな気になる。これも、前世の知識とやらなのだろうか。
 
「戻してはあげるから、安心して。ただ、その前に私がやらないといけないことがあってね」
「やらないといけないこと?」
 
 神さまは手のひらの炎を消すと、今度はこの白い部屋一面に、たくさんの絵姿を表示させた。絵姿──いいえ、違う。これは動画。動画というものの存在も、今の私にはわかる。
 その動画は、一気に動き出し声がわいわいと響く。それをきっかけに、私の脳内にものすごく大量の記憶が蘇った。
 
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