転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「やだな、イリス。たった二年で僕の顔を忘れちゃったの?」
「そういうわけじゃないけど……なんか格好良くなってたから」
「それは行幸」

 デリーはそう言うと、私の前に跪いた。

「えっ、なに?」
「イリス、手を」

 言われるままに、彼の前に手を出す。
 それをデリーがそっと取り、指先に唇を落とした。

 その一連の流れがあまりにも色っぽくて、彼がまだ十二歳だということを忘れそうになる。
 この世界の人間、成長が早すぎませんかね?

「イリス・エーグル辺境伯令嬢。どうかあなたの伴侶なることを、許可いただけませんでしょうか」

 これは、この国の正式な求婚だ。小さい頃からいろいろな本で、何度も見てきた。
 だからこそ、返し方も知っている。

 触れている手をもう片方の手でしたから支え、頷くのだ。
 そうしてこう返す。

「はい。この先永く、共に生きてまいりましょう」

 その言葉をきっかけに、拍手が部屋中に広がる。
 そうだった。

 今この部屋には、家族も使用人もいるんだったわ。
 私の返事を聞いて、デリーは顔をくしゃりと崩して笑った。
 
「良かったぁ。これで断られたらどうしようかと思ったよ」
< 49 / 168 >

この作品をシェア

pagetop