転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 そんなことを言うけれど、私とデリーの婚約は、事前に聞いていた。
 おそらく両家での話し合いは進んでいるのだろう。
 で、あればこれは、形式的なものでありつつも、デリーの優しさなのだと思う。

「イリス、僕はこの後の準備があるから、一度ここを退室するけれど、あとでホールで会おう」
「ええ。ファーストダンスは踊ってくれるの?」
「もちろんだよ。三曲続けて踊らせてくれよ」

 ウインクをしてから、皆に挨拶をして部屋を出る彼は、あまりにもスマートすぎて、思わず顔が赤くなってしまった。
 ほんの二年の間に、ずいぶんと男っぽさが身についていたようで、なんだかそわそわしてしまう。
 
 デリーが我が家にいたのは彼が七歳から十歳の間。
 私が五歳のときからだ。

 三年も一緒に遊んでいれば、まるで家族のようになる。
 婚約、と言っても家族が増える感覚になると思っていたけれど──。

「お母さま。なんだか……ちょっとドキドキしちゃってるの」

 思わず小さい声で、隣に座るお母さまにそう言えば、私の手を取って、にっこりと笑う。

「良いことだわ。貴族の婚約は政略的なことに基づくけれど、その中で相手に恋情を持てるなら、それは最高じゃない」
「小さい頃から知ってるから、どう転ぶかと思ったが、よかったよかった」
「お父さま。もしかして、婚約は昔から決まっていたの?」
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