転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 忘れてた?
 私、教えて貰っていたってことなの?
 くるり。
 音楽に合わせてターンする。

「ご、ごめん。じゃない。申し訳ありません」
「いいよ、言葉遣いは今まで通りで。婚約者だろ」
「こ……婚約……しちゃったのよね、私たち」
「嫌だった?」

 デリーが悲しそうな顔をするから、慌ててしまう。

「違う、違うの。デリーが嫌なわけじゃないの。その……デリーなのはどっちかというと……嬉しいんだけど」
「嬉しいんだ」
「にまにましないでよ」

 ぐいっと引き寄せられたので、そのまますぐ近くでもう一度ターン。
 ふふん。
 領地の野山を駆けまわってるから、足腰は強いしバランス感覚もあるのよ。

「初めて会ったときに、自己紹介したんだ。ただまぁ、身分をおおっぴらにはできなかったから、エーグル辺境伯家の皆さんと使用人までにしか、第一王子ということはバラしてない」
「つまり」
「そう。つまり、イリスには伝えていたんだ。まぁ、五歳の少女じゃ忘れてても仕方ないよね」

 そう言われてみれば、ウェスタ兄さまに第一王子のことを聞いたときに変な顔をしていた。
 あれは「今更何を言ってるんだ?」ということだったのね。

「イリス」
< 55 / 168 >

この作品をシェア

pagetop