転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「大丈夫。来ないで平気!」

 焦り駆け寄ろうとするフェデルを止め、沈み駆けたもう片方の足を抜き取ると、キュウリナが植わっている場所に足を置く。
 そこからどうにか、深く沈んだもう片方の足を引き上げる。
 随分と柔らかい土壌がそこにあるようだ。

「そうか……。うーん」
「お嬢さま、いつもきちんと危険を確認してから動くように、申し上げておりませんでしたか?」
「うん。いつも危険を確認してから動くように、言いつけられていたわ」
「だったら!」
「ごめん、ってば。フェデル」

 言いながら、柔らかい土をポケットから出したシャベルで掘っていく。
 やたらと粘土質の、にちゃにちゃとした土だ。
 一方、キュウリナが植えられている部分は、もう少しふわふわとしている。

「フェデル。ここの地域の三ヶ月くらいの天候を調べておいて」
「かしこまりました。戻り次第確認いたします」

 我が領地は、割と広い。北海道、まではさすがにいかないけれど、地域によって天気が変わることがあるくらいには、広大な領地を持っている。
 つまり、私が普段生活しているマナーハウスと、ここ北の森での天気は、全く違うこともあるのだ。

「メーズルさん、一度帰って調べ物をするわ。解決作は近いうちにお知らせできると思う」
「ありがとうございます」

 奇形のキュウリナがだめなわけではない。
 前世のように、規格外だから売れないとか買い取って貰えないとか、そういうことはないのだけれど、それでもやはり売価は下がる。
 だから、それが続くと村としては──結果領として大損となってしまうのだ。

 こうして領内を周り、農業メインの我が領地の、小さな困りごとを解決する。
 それが、私が今辺境伯領主の娘としてやっている、仕事の一つだった。

「ま、趣味の延長なんだけど」
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