転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない

第14話 果実酢と果実水

「戻りました」
「イリス、お帰り」
「……デリー、外から帰ってきたら、手を洗うまでは待ってって言ったでしょ」

 帰宅早々に私を抱きしめるデリーに、どうしても感染症対策が頭に浮かぶ私が、苦言を呈する。
 すぐに「ごめんって」なんて言いながら離れるけれど、この習慣は変えられないだろうなぁ。
 入り口前に、手洗い所を作ろうかな。
 
 あ、それいいかも。
 そうすれば、家族も使用人も使えるし、ウイルスを持ち込むリスクも減る。
 早速あとでホロ爺にお願いしておこっと。

「はい、デリー。どうぞ」

 手洗いとうがいを終え、上に着ていたものを脱いだ後、私は両手を広げる。
 そこに駆け寄って私を抱きしめるデリー。
 そう。

 デリーは一昨日から、我が家に来ているのだ。
 どうやら王城でゴタゴタがあったらしく、しばらくこちらにいるとのこと。

「今日もお仕事お疲れ様。これ、僕が作った果実水」

 とても王族の、しかも継承権第一位の王子である人間とは思えない気さくさで、淡いピンクをうっすらとさせた水を手渡してくる。

「果実水?」
「そう。イティゴを入れたんだ」

 こくりと飲んでみると、甘いイティゴの香りが口の中に広がった。
 それなのに、僅かに酸味というか、さっぱりとした印象もあるのが不思議だ。

「それは、発酵させたイティゴを搾って果実酢にしたものを、希釈したんだ」
「えっ、なにそれちょっと、詳しく! ねぇ詳しく!」
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