転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「イリスが興味を持ってくれて嬉しいよ。ほら、落ち着いて。向こうの部屋でゆっくりと話そう?」

 思わずデリーに駆け寄ってしまったけれど、婚約者同士といえど、未婚の男女の距離にしては近すぎたようだ。
 コホンとフェデルがわざと咳をしたので、正気に戻れた。ありがとう、フェデル。

「僕は全然、いつでも抱きついてくれて良いんだけどね」
「それは全然、いつでもダメだな」
「ウェスタ兄さま!」
「ウェスタ」

 横から登場したのはウェスタ兄さま。
 剣の稽古の後に水浴びをしてきたのか、髪の毛がしっとりと濡れている。
 乾ききっていない髪の毛から、少し水が垂れて、シャツが丸い水染みを作っていた。

「デリー、いくら婚約者といえど、もう十六と十四だ。軽率な行動は禁止」
「ちぇ。わかってるよ」

 ウェスタ兄さまとデリーは、同い年ということもあって、気安い。
 それに、デリーは全然第一王子っぽくない。

 というか、正直第一王子っぽさってなにかわかってないけど。
 でも、私がイメージする王族という人たちと印象も違うのよね。

「この領地のためになる話だし、ウェスタも一緒にどう?」
「あぁ、一緒に聞きたいのはやまやまだが、僕の身の安全のためにも、ここは遠慮しておくよ」
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