転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「ねぇ、デリー。その発酵グーツ石があれば、いろんなものを短時間で発酵させることできるということなのね」
「そう。通常発酵よりも早い時間で、しかも発酵させるための砂糖なども不要で」

 さっきのイティゴの果実水は、確実に果実酢を希釈したものだった。
 ということは、果実酢を簡単に作れる。
 領内で部分的に虫食いが起きていた果物や、地面に落ちた果物を、そうした果実酢にして商品にしたら、売れるのではないかしら。

「お母さまにも、その果実水を」
「今夜、ディナーでお出ししよう」
「それが良いわ。デリー最高よ!」

 隣に座るデリーに思わず抱きついた直後、フェデルが大きな声で咳き込んだ。

    ***

 どうもイリスを性懲りもなく狙っている奴がいる。
 狙っている黒幕なんて、わかりきってはいるのだが。

 イリスの身の安全を守る方法は、安全な家に閉じ込めておくことだ。
 でも、そんなことは無理だ。

 だって彼女は、領地を駆け巡り、大地の恵みを存分に感じて、土まみれになっているときが、一番幸せそうなのだから。

 だから僕は、何があっても黒幕を潰す。
 敵は早々簡単に潰せる相手ではない。
 それでもじっくりとその喉首を押さえ込んでやる。

 このエーグル辺境伯領でイリスを狙ったヤツは、消して許しはしない。
 生きてこの領地から出られると思うなよ。

 イリス。イリス・エーグル。
 その名にふさわしい、僕の大切な女神。
< 66 / 168 >

この作品をシェア

pagetop