転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 
「そんなある日、密かにデートしていた王城のローズガーデンで、二人が抱き合った瞬間、そこのバラが一斉に咲いたの」
 
 王城で! 密かに! しかも抱き合って! もうツッコミが追いつかない。
 
「王族には『ローズガーデンの薔薇が一斉に咲くのは、聖女がその力に目覚めるとき。聖女の奇跡として現れる』って言い伝えがあってね。それでヒロインが聖女の力に目覚めたことがわかり、彼女に意地悪をした悪役令嬢のイリスちゃんは断罪されて、第一王子と聖女が結婚してハッピーエンド、ってわけ」
 
 それ、全然ハッピーじゃないな。
 私の不満気な顔に気付いたらしい。神さまが慌ててフォローしようと両手をわたわたさせながら口を開く。
 
「あの! でもほら、王国には聖女が誕生するわけだし」
「その聖女がいたら何が良いんですか? 戦争が生まれない? 王国の貴族の結束が固くなる? 反乱が起きない? 豊穣が約束される?」
「う、いえ……その……。神の存在を示すことができるくらいで……」
 
 つまり何か。割と国民がきちんと信教しているというのに、自己主張したいたいめに神は聖女を生み出し、結果、王族と辺境伯家の婚約はなくなり、繋がりが緩くなる。

 言っちゃ悪いが、私は家族に愛されているからね。
 五人兄弟の上四人が全員男だ。しかも親族も基本男ばかり。
 つまり、女が血族として生まれることが少ない一族で、数世代ぶりに生まれた直系の女児。愛されないわけがない。
 
 ──と、前世の記憶を取り戻した今は良くわかる。まぁ、記憶を取り戻す前の十歳の私もなんとなくは分かっていたけど。
 第一、バラの花が一斉に咲くのは、庭師の努力と温度管理のたまものだ。聖女の奇跡なんてものにされたら、庭師が不憫だわ。
 
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