転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
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その日の夜、発酵グーツ石を大量入手することを了承したお母さまは、その交渉をメル兄さまとなんと身分を隠したデリーにするように言い出した。
第一王子だってのに、そんな対応していいのかしら、と思いつつも、そういえばこの家にいる間は『第一王子』という身分は無視するというきまりがあることを思い出した。
それが、私が五歳のときから続く話。
私は小さすぎて、そもそもデリーが第一王子だということも忘れていたのだけど。
「デリー」
「イリス!」
私が話しかけると、まるで花が咲いたかのような笑顔を見せてくれる。
なんだか犬みたいだなぁ、なんて失礼なことを考えてしまった。
「明日からアジェスティ王国に行くんでしょ? 大丈夫?」
「大丈夫だよ。僕は第一王子感がないからね。イリスが気付かないくらいだ」
「うっ、それを言われると……。でも、あの、パーティ会場では王子様っぽかったわよ」
「王子様っぽい方が良い?」
「全然」
「……迷いがないな」
デリーは笑いながら、私の髪の毛を撫でる。
彼の手は温かくて、そして大きくて気持ちが良い。
そう言えば、二年前は私より少しだけ高かった背は、もう随分と高くなっている。
男の子の身長って、やっぱり一気に伸びるんだなぁ、なんてことをぼんやり思ってしまう。
「んんっ。イリス」
「はい?」
「なんで、僕に撫でられてる間、目をつぶってるんだ」