転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「え、気持ち良いから?」
「そう、か」

 何か問題があっただろうか。
 小首を傾げて見上げれば、デリーは少しだけ顔を赤くして笑った。
 そうして、私をそっと抱きしめる。

「早く結婚したいな」
「……デリーと結婚するときは、やっぱり立太子するとき?」

 思わず口にしてしまった言葉を、後悔した。
 こんなこと、国を背負おうとしている立場の第一王子に言うべきではなかった。

「ごめ……っ、ごめん、デリー」

 慌てて体を離して謝ろうとしたけれど、彼の腕が私を離してくれない。

「デリー?」
「イリス、何に謝ったの?」
「あの……。デリーが国を背負おうとしている立場なのに、私がそんな」

 その言葉に、あからさまにほっとした顔を見せる。
 そうして、ゆるりと私を抱きしめていた腕が緩んだ。
 デリーは少しだけ大きな息を吐きながら微笑むと、私の肩に手を置く。

「イリス、謝らないで。僕は、君が僕との結婚を嫌がったのかと思って」
「まさか! 私はデリーと結婚することは嫌じゃないわ。ただ」
「ただ……?」
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