転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 彼の黒曜石の瞳に不安の色が僅かに浮かぶ。
 ガラスのように光る瞳は、少しだけ濁っていた。

「王妃、というのは、私には不相応だと思って」
「そういうことか。それは、誰かに言われたの?」
「ううん。お母さまも、デザイナーのジョニュア女史も、私は王妃が務まると言ってくれてるわ」
「僕もそう思うよ」
「でも、私自身があまりそうは思わなくて」

 デリーは、私の頬を優しく撫でる。
 その動きが柔らかく、少しだけくすぐったくて、思わず目を細めてしまった。

「デリーったら。くすぐったい」
「ん。イリス、王妃になりたくない、って言うのが、君の気持ち?」
「そうね。ならなくていいなら、なりたくはないかな。でも、それは我が儘だってわかってるから」

 私をもう一度柔らかく抱きしめると、デリーは私の頭頂部にキスをする。

「イリス、僕は君を愛しているよ」

 何の答えにもならないけれど、まるで全ての答えのように、彼はそう言って、もう一度私を抱きしめた。
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