転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
「そもそもなんで、生まれ変わる先がそんなところなんです?」
 
 それに、と私はずっと気になっていたことを尋ねる。
 
「それはその……。日本でそういう小説が流行ってると聞いて、面白そうだなぁ、って」
 
 両手の指を合わせながら、もごもごとそう言う神さまを見て、悟ってしまった。
 
「ああ……。興味本位ですね。神さまの手違いで死んだ人間を、恩着せがましく転生させて、楽しもうっていう。しかも浮気されて断罪? とかされるキャラクターにだなんて」
「うっ」
「悪趣味なんですね、神さまって」
 
 じとりと見てやれば、体をちぢこませていく。
 確かに、小説やマンガ、アニメなんかでは、乙女ゲームに転生した話とか、流行っていた気がする。アニメを流し見したくらいの記憶だけど。
 そこで私はパンと一つ手を叩いた。
 
「でもまぁ、もう私は転生してしまったわけですし、神さまは私の記憶を取り戻させるために、イリスの体を瀕死にしたわけですし」
 
 にっこりと笑えば、神さまはさらに申し訳なさそうな顔をする。いいぞいいぞ。その方がこちらの要求をのんで貰えそうだ。
 
「私が私の体に戻る前に、希望のチート能力を付けて貰えませんかねぇ」
 
 後天的にでも、能力が付けばラッキーだ。
 
「そ、それはもう! 付けさせていただきます! その代わり、悪役令嬢イリス・エーグルであるという自覚だけ持っていただけるとぉ」
「良いですよ」
 
 自覚くらいなら、ね。
 
「やった!」
「あなた、本当に楽しんでるだけですね」
「い、いえそんな! それよりどんな能力をご希望で? 美しさを維持するチート? それとも、意地悪を考える能力を」
「どんだけ悪役令嬢に寄せていこうとしてんのよ。えぇとね」
 
 こうして私は、ガーデニングや園芸、農業に関する知識を得る力と、その能力を最大値にして貰うことに成功した。
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