転生したガーデナーは、悪役令嬢の夢を見ない
 返すデリーの声は、今までの柔らかさが一切ない。

「あの、少々お話を」
「僕は今、婚約者と話をしているのが見えない?」
「い、いえその……。今エーグル辺境伯家の方が席を外されたので」
「うん。でも、ここに僕の婚約者がいるんだけど」
「ほ、ほんの少しで良いので……」
「……わかった」
 
 わぁ。これ、私口挟んだら、面倒になるヤツよね。
 黙ってる方が良いけど、なんか彼女がいたたまれないし、何よりめでたい収穫祭で、何かもめ事が起きるのもなぁ。

「イリス、今ウェスタが来るから、彼と一緒にいて。絶対にウェスタから離れないでね」
「ん? うん」

 私の耳に囁くように告げたデリーに、了解を返す。ウェスタ兄さまが来たので、言われたとおりに兄さまの手を取った。
 デリーは、声をかけてきた彼女を連れて、三番と呼ばれるテラスに向かう。

「ウェスタ兄さま、デリーが彼女をあそこに連れて行くと言うことは」
「ああ。紛れ込んだ何かだろうね。デリーは何で感づいたのか」

 三番のテラスは、今回のパーティで不審な人物がいればそこに連れだし、密やかに奥の間に連行するための導線となっていた。
 彼女の何が不審だったのかはわからないけど、何か確信があったのだろう。
 それにしても。

「デリーが……というか、第一王子が、自らやることなのかな」
「まぁ、あいつはイリスを守るためなら何でもするからなぁ」

 ウェスタ兄さまの苦笑いが、妙に実感を伴ったもので、深く聞くのはやめようと決意したのだった。
 
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