婚約者様、「君を愛することはない」と貴方が乗り込んできたせいで私と貴方の魂が入れ替わってしまったではないですか!責任を取ってください
 ローレンス様が胸を張る。

「大丈夫です! どーんと大船に乗った気でお任せください!」
「いえ、だってローレンス様、秘密を黙っているのは無理だって仰ってましたよね!?」
「それですが、良い対策を見つけたんです! 私、基本的に一度に一つの事しか考えられないんです。女性らしい言葉と態度に一所懸命になっていると、他の事は頭にないので問題ございませんわ!」

 こっ、この単細胞っ!!!

「無理です!ローレンス様には絶対無理ですったら!」

 彼はむうっと頬を膨らます。くっ、私の顔でかわいこぶった表情をしないで!

ローレンス()は今まで、沢山の素敵な女性とお友達になって仲良くしてきたのですよ! リディア嬢だってフィンリーにバレずに話せたんですもの! 私にできないわけないでしょう!」
「フィンリー様ひとりを相手にお酒を飲むのと、あの大勢のご令嬢を相手にお茶を飲むのは違うわよ。あなたでは絶対上手く行かないわ!」

 私は彼を止めたかったのだけれど、これは逆効果だった。煽るかたちになってしまったのだ。

「いいえ! セーラと特訓すれば楽勝ですわ! ばっちり上手く立ち回って、お友達を沢山作り、リディア嬢をギャフンと言わせて見せます! おーほほほ!」

 最後には私の見た目もあいまって、なんだか小説の悪役令嬢みたいな事を言い出したローレンス様は、セーラと連れ立って部屋を出ていった。

 後にセーラに聞いたところ、ちゃんと特訓では私(ローレンス様)がオーク家に滞在している事や怪しい薬の事を訊かれたと想定して、当たり障りの無い回答まで考えて淑女らしく答える練習までしたらしい。確かにそれは立派だけれど、二人とも周りのご令嬢がどういう態度かまでは想定してないのよね……。

「こうしちゃいられないわ! 急いで元に戻る薬を完成させないと!」

 私は先日、注文があった治療薬の最後のぶんを完成させ納品していた。後はのんびり元に戻る薬を作ればいいと思っていたけれど、こうなったらお茶会の当日までに私は元の肉体に戻らなければ!
 私は研究室に籠り、必死に研究を進めた。


 ◆◇◆◇◆


 お茶会当日。大変残念ながら薬の完成はあと少し間に合わなかったの。

「それでは行ってまいりますわ!」

 着飾った私の姿を見て、家族みんなローレンス様を褒めそやした。

「おお、良いじゃないか! 綺麗だぞ」
「見違えたわ!……嬉しい……ううっ」
「ローレンス様、ファッションのセンスありますね」
「セーラと、リディア嬢に一番似合うメイクや衣装を研究しましたから」
「今までお嬢様はこういう事を嫌がられていましたからね。磨きがいがありました!」

 彼はセーラと顔を見合わせ、ニッコリと微笑む。その表情も、瞳に合わせた紫色のドレスや凝った髪型も上品で女性らしいし、キツいつり目はメイクで柔らかく見えるよう整えている。……悔しいけれど普段の私より数倍感じが良く見えるわ。

 家族みんな、そしてセーラも、ローレンス様本人も綺麗になった私(の身体に入ってるローレンス様)を見て、私の汚名を返上できると疑っていなかった。私だけがそうではなかったから最後まで止めたけれど多勢に無勢。彼はご機嫌でお茶会に行ってしまった。

 ……でも、この時たったひとり反対していた私の考えが正しかったのよね。

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