婚約者様、「君を愛することはない」と貴方が乗り込んできたせいで私と貴方の魂が入れ替わってしまったではないですか!責任を取ってください
「ローレンス様、ひどい! 私を嘘つきだっていうの? 信じてくれないの!?」
噓泣きをしながらプライウッド男爵令嬢が私たちを責める。以前の彼ならおろおろしていたろうに、私の肩を優しく包む彼の手は、震えも躊躇いもなかった。
「ああ、嘘つきだ。俺は君たちが以前リディア嬢を罠に嵌めて貶めたのを知っている」
「な、なんで急にそんな事を」
「この間の茶会で、自分たちで言ってたじゃないか。『また公衆の面前でこっそり虐めてさしあげましょうか? どうせ貴女が何を言っても周りは信じてくれないわ。そっちが加害者扱いされるように私たちは立ち回るもの』と自白したのを俺はちゃんと聞いている」
周りが一気にざわめいた。令嬢たちの顔が青ざめ、紙のように白くなっていく。泣き真似で顔を手で覆っていた男爵令嬢が指の間から私を睨んでいる。この間のお茶会で彼女たちが言っていた事を、私がローレンス様に告げ口したのだろうと思ったのね。まさか本人に直接言ってたなんて想像もできないでしょう。
「しょっ、証拠はあるの? 適当なことを言わないでくださる!?」
「そうよ! フォークが床にあったって、誰かが落としただけでしょう!?」
「騒がしいわね。くだらないことで宴を台無しにしないで頂戴」
威厳ある声が割り込み、その場の全員が息を呑み口をつぐむ。
人垣が二つに割れ、その間から一人のとても美しい女性がゆっくりと歩いてきた。まぎれもなく主役であるイレーヌ・パウロニア王女殿下だ。私たちは慌ててその場で腰を落とした。
「証拠があればいいのでしょう。時間を無駄にしたくないわ。それをよこしなさい」
「は」
イレーヌ殿下が床に落ちたフォークを指さし、侍従が慌ててそれを拾い、磨いてから手渡した。
「私の魔力の属性を、皆覚えている?」
彼女はゆっくりと銀のフォークに手をかざす。すると彼女の手から白い光があふれ、フォークを包んだ。
「私はずっと表に出ていなかったから覚えていない者もいるでしょう? よく見ておきなさい。私は光の記憶を辿ることができるのよ」
殿下がフォークを皆によく見えるように腕を伸ばした。その銀の表面に映像が映る。
「あっ!?」
プライウッド男爵令嬢がフォークを手に取り、悪魔のような笑みを見せている。その後ろには令嬢たちがやはりあくどい笑みを浮かべていた。
フォークはそのあと彼女の手と周りの動いていく景色を見せていたが、しばらくすると青と紫のドレスを映した。黒いレースの部分がハッキリとわかるほど近づくと、突然画像が横にぶれる。フォークは空を飛びながら私とプライウッド男爵令嬢を映した。その後彼女がニヤリと笑い、すぐさま泣き真似をする景色まで見えている。