婚約者様、「君を愛することはない」と貴方が乗り込んできたせいで私と貴方の魂が入れ替わってしまったではないですか!責任を取ってください
「これは……」
「光魔法の一つ。モノに映った景色を暫くの間もう一度映すことができる。立派な証拠になるでしょう? さあ、嘘をついていたのがどちらかは明白ね」
殿下の横に居た侍従が頷き、衛兵を呼ぶ。令嬢たちは衛兵に捕まったが往生際が悪く抵抗している。令嬢の親と思われる人も抗議に来た。
「こ、これは何かの間違いです! 殿下、お考え直し下さい」
「オーク伯爵令嬢の罠よ! 彼女は魔女なの!!」
「黙れ」
折れそうなほど細くたおやかなイレーヌ殿下から発されたとは信じられぬほど、低く威厳のある声が通り、場は再びシンとなった。
「これ以上、私の大事な友人を侮辱するのは許さぬ」
「……友人……?」
プライウッド男爵令嬢が震える唇から疑問を放つと、殿下は氷のような目で彼女を射抜いて言った。
「ああ、友人で命の恩人だ。私が病に臥せり医者が皆匙を投げた中で、彼女だけは必死に私を助けようと何度も薬を届けてくれたのだからな」
「薬を!?」
「で、では、オーク伯爵令嬢が作っていた怪しい薬と言うのは……!」
これ以上ないほど周りがどよめいた。横に居たローレンス様は目が飛び出るかと思うほど大きくなって私を見つめている。ああ、我が家の一番の秘密、イレーヌ王女殿下が夢幽病患者だったのをまさかご本人に暴露されるとは。
「怪しい薬などではない。現に私は薬のお陰で完治してここに居るのだから。本来ならば本日の主賓はリディアだったのだが、彼女が控えめで目立つ事を嫌がったから普通の招待客と変わらぬ扱いをしたのだぞ」
私は頭が痛くなり抱えそうになった。目立つのが嫌ってわかってるなら、こんな最高に目立つ方法を取らないでよ殿下!! 私を白い目で見ていた人たちが一気に違う色で見てくる視線がびしばしと突き刺さる。
「お前たちとその家の者には追って沙汰を知らせる。覚悟せよ」
「!!」
「嫌っ、離して!!」
「いやあああ!」
令嬢たちと、彼女と同じ家の人間は衛兵たちに引きずられ、どこかに連れて行かれた。それを見届けたイレーヌ殿下がにっこりと女神の様な微笑みを見せる。
「さっ、パーティーの続きをしましょ。貴女の婚約の祝杯もあげなきゃね。まずは何を飲む? リディア」
「……殿下。勘弁してください」
私は今度こそ頭を抱えた。こんなところをセーラに見られたら淑女らしくないし髪が崩れる! と怒られるだろうけど、頭が痛くて仕方なかったんだもの。